メールで様々なご質問をいただくことがありますが、通院中の患者さんなどの場合を除いてお返事は失礼させていただいております。ただし、今回ある方からいただいた質問は、簡単な練習問題として面白いかと思ったので、大意を抜粋してここに掲載させていただきます。最初にお断りしておきますが「打ち身に� �糖水」がニセ科学だと追及しているわけではありません。あくまでニセ科学とその周辺を考える題材としてとりあげてみただけです。
<質問>
「私の働いている職場では打ち身などに砂糖水をつけるのですが本当に効果があるのでしょうか。主任は効果があると言ってつけるのですが、自分が体験したことがないので信じられないし、他の人に聞かれても自信を持って答えられません。医学的な根拠はあるのでしょうか? S市 M」
<答>
医学的な根拠はありません。
砂糖水に効果がある可能性を全て否定する(あるいは逆に有害であると断定する)根拠もありませんが、もし効果があるとしても客観的にその差を証明できる程とは思えません。
打ち身のときには「冷却」すべきだと思います。
家は簡単ににきびを除去するためのレシピを作った
<解説>
ここでは砂糖水をつけると打ち身に効くかどうか、その真偽については触れないでおきます。
もし砂糖水に効果があるのであれば、それをどうやって証明すればいいのか考えてみましょう。
・砂糖水に効果があるのなら、その有効成分は砂糖(主にショ糖)と考えられるので、砂糖の抗炎症作用が、動物実験など様々な方法で確かめられること。
・種々の濃度の砂糖水を皮膚に塗ると、有効な濃度で皮膚から皮下組織、あるいは筋肉へ吸収されることが確かめられること。
・実際に臨床的に打ち身に対する効果を確かめるためには、比較対照試験が必要です。
1)「何もしない」グループと比較する
2)プラセボ(偽薬)コントロールと比較する
3)一般的に行われている治療(冷却や消炎鎮痛剤の塗布など)と比較する
にきび跡の修復の写真
1)は新薬の治験のようなボランティア(アルバイト)でないと、実際に症状のある人に「何もしない」ことを選択することは倫理的には困難。
2)は良く知られた例で、高名なお医者さんに「よく効く薬だよ」と言って処方されれば、小麦粉を固めただけの「クスリ」であっても一定の割合で改善効果が認められる(病も気から)ので、プラセボ(偽薬)よりも効くということが確かめられなければ、薬の効果ではなくプラセボ効果しかないということになります。
より厳密に行うためには、処方する医師が本物の薬か偽薬かを知っていると、無意識のうちに言動にあらわれ患者さんに対する効果に影響することが知られているため、医師も患者も知らない「二重盲検法」という方法が用いられます。
例えば、保育士さんもどちらかわからないように砂糖水と食塩水を用意しておいて、その結果を時間と共に観察し比較するというわけです。
3)は更に、砂糖水が冷却や消炎鎮痛剤と同等または優れた治療であることを証明する方法です。
いずれも、両群で統計学的な差を証明するためには、相当数のケースが必要になります。
また、砂糖水では問題になりませんが、新薬や民間療法などでは当然副作用の問題が出てきますが、ここでは省略します。
砂糖水の効果は、以上のような手法では全く確かめられていないし、これからも実証される見込みはありませんから(そんなことしても時間とお金と手間がかかるだけで誰の得にもならない)、今後も「不明」のまま「驚異の民間療法(下記サイト参照)」として言い伝えられていくのでしょう。
軽度の眼瞼下垂のインプラント
ではなぜ効くとされているのか。言い伝えられているのか。
ここでは「効果があることは証明されていない」と書きましたが、これはもちろん「効果が否定された」と同義ではありません。
ですから、本当に効果があるのに単に科学的に証明されていないだけ、というのが一つの可能性。
ところが、ネットで検索してみるとみつかるのは次のようなページばかりです。
<ネット上で検索された記載例>
>Q.打ち身や擦り傷に砂糖水を塗ると良いと聞きましたが本当でしょうか?
>A.本当です。
>切り傷には砂糖を其の儘つけると止血に効果的です。
>擦り傷や打ち身には濃い目の砂糖水を塗ると、止血作用と熱を取り腫れに効きます。
>驚異の民間療法
>患部に砂糖水を塗るだけ。でもこれが凄い。
>本当は怪我をしたらすぐに塗らないと効かないらしいのだけど、
>既に青アザになった患部に塗っても効果があった。
>時間が経つとちゃんとアザが薄くなっていく。もちろんコブにも効果がある。
これでは何の説得力もないのですが、最初に書いたニセ科学を信じる人たちというのは、ああそうなのか砂糖水に効果があるんだと信じてしまうわけですね。。
最初の例は何の根拠も示さずに「効果があるから本当だ」と言っているだけ。
私たちは根拠のはっきりしない意見や伝聞を書く場合、このような断定的表現は用いず、「〜のようだ」あるいは「〜とされている」「私は〜と思う(考える)」などといった表現を用います。
二番目の例は主観的な判断だけで「凄い効果がある」と信じている。
上記の「プラセボ効果」や「自然治癒」(打ち身ですから何もしなくても自然に数日で治るのに、塗ったために早く治ったと思いこんでいる)である可能性を除外できていません。
時間が経つとアザが薄くなっていくのは、生きている証拠です。
何度も書きますが、「効果があることは証明されていない」のと「効果が否定された」ことは同じではありません。
無論この方たちが誰かをだまそうとして書いているわけではなく、善意で良いことを知らせようとしているように思えますが、このような非科学的な考え方では、何も言っていないのと同じことなのです。
<ニセ科学の問題点>
砂糖水を塗るというケースでは、証明されていない効果が期待できるかもしれないことに加えて、親や保育者の愛情が子どもたちに伝わり、この場合は悪いことはそんなになさそうに思えます。実は、砂糖(イソジンシュガー)は褥創の治療に使われていますので、創傷治癒にプラスの効果がある可能性は否定できません。(打ち身で皮膚の上から浸透して炎症を抑えるとはとても思えませんが…)
また、中医学では砂糖は温める効果がある(黒糖は温めて白砂糖は冷やす?)とされているようです。ただし、これは経口摂取した場合で、外から塗って「熱を取り腫れに効く」というのは疑問が残ります。
いずれにせよ、その程度にノンビリと構えて「どちらでも良い」といういい加減な書き方をしているのは、砂糖水の場合、1)価格が安くインチキ商売のタネになる心配がない、2)食べられるものなので外用での安全性は問題にならない、という2点が確かめられているからであり、多くの「ニセ科学」や「ニセ科学と科学の間にあるもの」の問題は、その2点に尽きると言っても過言ではありません。
1)インチキ商売のタネになっている(詐欺または詐欺まがい)
2)安全性に問題がある(健康被害)
騙されても誰も損をしないし、何の害もないのなら、勝手に騙されていればいいわけなのですが、そうじゃないから問題なんです。
<ニセ科学と科学の見分け方>
ニセ科学の見分け方(妄想科學日報)
「ニセ科学」入門(大阪大学サイバーメディアセンター菊池誠)
kikulog
疑似科学(Wikipedia)
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